俺が立ち上がるまでもなく、ヒロミがいたずらに取り上げて耳にあてがう。
「もしもしー」
けだるそうなゆるみきった声で答えると、
「あー女の人だぁー。もしかして、サンタさんの奥さん?家おとうさん、死んじゃったの。うらやましいなぁー。」
「そうよ」
聞き漏れる俺の娘の声にこたえ、母性を溢れさせた柔らかい響きで答えた。
「えーとね、サンタさんにプレゼント、ありがとうって言っといてね。ママに見つかると取り上げられちゃうから、ちゃんと見つからないようにするから。じゃあね。バイバーイ。」

「あんた、娘いたんだ?サンタさんプレゼントありがとうってさ。」
「聞こえてる…」
また面倒そうな声色に戻ってヒロミはこちらに携帯を投げた…。



ヒロミ、アキラ、じいさん…みんなみんな、さよならだ…
俺の眼の前には、クリスマスイブのくせに、クリスマスイブだっていうのに、雪になりゃあいいのに、みぞれ交じりで、ぐしゃぐしゃの泥まみれで、眼の前が見えやしねえ。
まったく台無しだ。


今日より『あした』、いいラーメンが作れますように…『あした』よりあさって、俺もじいさんも納得できる味であるように、その願いの全てが込められた暖簾が…

じいさんが味見に来なくなって、もう1週間が経った…。