「!」
俺は有らん限りの力で、アキラに拳を突き立てた!
「1発でかんべんしてやる。」
しなやかな長身は二つに折れ、黙って素直な瞳でこっちを見返してくる。
俺はこいつの澄み切った性根が好きだ。
アキラにロックをやらせておくのはもったいない…いや!屈折率のないそのまっすぐさがロックなのか!

その後ろでアキラを思いやるように震えるヒロミ…。この女は、男達の上澄みを吸っては跳ね、答のないゴールを目指し、老いさらばえていくのだろう…。

俺は黙って昨日の売上げの全額を銀行の封筒に包み。黙ってアキラの胸元に差し入れる。
「明日からの1ヶ月分だ…。」
毅然と振る舞う俺に怯えるヒロミを睨み付け、俺は2階に準備してあった暖簾と白墨をカウンターに並べて、筆をとらせる。
「書け。」
「なんて?」
ひらがなで『あした』だ。
うながすとヒロミはきりりと身を引き締め、矢を射貫くように筆を走らせていく。
永遠の如き数十秒は俺でなくともあたりの者たちを凍り付かせる緊張感に充ち満ちていた。
なぜ神はこの天賦の才に光を当てぬのか!
なぜこの心にこの書が宿るのか!
まったく皮肉にも程が過ぎる。まったくだ。
何度思ったか分からない悔恨にも似た気持ちに満たされると、カウンターに置きっぱなしだった携帯が着信を告げる。