「アキラ、お前最近どうかしてるぞ!ヒロミにペース合わせてたらやっていけんと、お前が言ったんだろ!」
今月に入って何度目かわからないくらいスープを駄目にしたアキラに、俺は大人げなく怒号を上げていた…。
「あとは俺がやるから!」
軽く肩を押しのけると、俺より長身のアキラが腰が砕けたように崩れ落ちる。

ヒロミがいうところの「ボクネンジン」の俺もさすがにこれはただ事ではないと悟った。
「酔っただけじゃないな!どうしたんだ!アキラ!」
無駄だと分かっても肩を揺すって正気に戻さんとする。
アキラは突然、怯えるように震えだし、新調したばかりのスマートフォンでどこかに電話をかける…。
「…足りないっっすよ。来週まで…。」
とっさに電話を取って耳に当てる。
「いい感じだねえ。きちんとご奉仕してくれれば、いくらでもあげるさ。」
聞き慣れたヒロミの蠱惑的な声色…。
食わせ者だとは思っていたが、こいつは俺が想定していた以上の怪物だった。
「待ってろ!」
反射的に叫んで、俺はアキラを置き去りにしたまま、「本日休業」の札だけを下げて、有らん力を振り絞って部屋へと走った。

こんな時に限って、CDショップのオヤジがマニアックな新譜が入荷したときのニタニタした表情で俺に微笑んでいたが、そのオヤジを振り切って二階へと駆け上がる!
部屋にはすでに人影はなく、そこには使ったばかりの注射器と、テーブルの上にいつもの恐ろしい程の清冽さをたたえた書で、
「破」
と一文字大きく書き貫かれていた…。