「ねぇ、あの話、いいでしょう?」
年頃の娘がいるはずのCDショップのオヤジに遠慮することもなく、激しくまぐわった後、煙草を肺いっぱいに吸いこんで、まどろんだような瞳でヒロミは言った。
俺は結局、じいさんとの約束を果たすために週に4日しか店を開けなくなっていた…。
先月までは店のやりくりもあり、週5日から、アキラの手伝いもあって土曜日の通し営業も含めて週6日の営業をしていた。
ところが、味の研究をするのは思った以上に骨の折れる作業で、結局は稼げる土日を中心とした木曜日から日曜日までの営業とし、月曜日を研究に、火曜日と水曜日は倒れるように休息をするだけになってしまっていた。

ヒロミは何も言わなかったが、せっかく軌道に乗ってきた自分の店に水を差されたような気分で、さらにはアキラの人気もあり、例のケーキは今の3倍売っても余裕があるほどの行列になっていた…。
それに気分を良くして、自分はケーキしか作れないくせに、ロック・バーのようなものを営業したいともちかけてきた。アキラのバンドのメンバーを客寄せに、料理は追っかけの誰かにやらせるから大丈夫だと、相も変わらぬ達筆ぶりで、メニューを書き上げては悦に入っている。
アキラから裏を取ろうとしたが、きつく口止めされているらしく、全容がつかめないままに押し切ろうという腹のようだ。はぐらかそうと、もう一度せがむように腕をまわすと、
「だーめ。お願いきいてくれたら、ね。」
俺が吸わないのを知っていて、肺からはき出した煙を顔に吹きかける…。
「休みぐらいお前と居たいんだよ」
「じゃ、言わしてもらうけど、休みぐらい、楽しませてよ。」
裸のままキッチンで適当にカクテルを作ると、火照った身体にはすがすがしいそれを、口移しで氷ごと俺の口腔に流し込む。
「!」
ぱっと見はカシスオレンジだが、中味は焼けるほど熱いジンで濃く割ってある。残ったそれをヒロミは一息で飲み干すと、おれにまたがった形のまままぐわい、俺の脳が溶けるような声色で言う…。
「ワタシも、楽しんで、いいでしょう?」