―夜魅side―


『……静かな荒れた町を想像してた俺は浅はかだった』


『確かに、妖魔に怯えてる様な町を想像してたわ』


私達は町に着き、早々に言葉を漏らした


町はガヤガヤと騒がしい


これまでに訪れてきた町は妖魔に怯え、人々は家に篭りっぱなしな町ばかりだったから…今回は少し驚いた


誰もが妖魔を気にしていない様子だった


『怖くないのかねー…俺達の出番ある?』


蒼夜がしゃがみ込み、店先の林檎を手に取って呟く


…出番無ければ困るのだが


『お!お兄さんイケメンだねぇ、安くしとくよー!』


真っ赤に熟した林檎をじっと見つめている蒼夜を見付け、店主が愛想のよい笑顔で話し掛けてきた


少し大柄で商売慣れした女の人だ


蒼夜は店主をチラッと見上げると、何かを考え、ニコニコと私に林檎を差し出してきた


『夜魅、林檎食う?』


『………食べる』


私は差し出された林檎を受け取ってコクリと頷く


そんな私に蒼夜は優しい笑顔を向け、店主に林檎の代金を払った


私は目の前の林檎を見詰める


………美味しそう


知らず知らずのうちに笑顔になる