―リクside―


『……報告は以上です』


俺は電話を片手に談話室のソファーに腰掛けていた


かれこれ1時間以上ここに居ることになる


受話器の向こう側から男が考え込む声が聞こえる


『……なるほど。向こうが動き始めたか……あの女に変化は?』


………あの女


特別な固有名詞を使わずとも、たやすく誰の事なのか想像出来る


『……夜魅、ですか?』


『あぁ…確かそんな名前だったな』


名前も覚えていないのか


まぁ…仕方がない


なんせ奴らは夜魅のことを“利用価値のある餌”としか思っていないのだから


捨て駒の名前なんて覚える意味が無いのだろう


……どこまでも下衆な野郎だ


『あの女に何か変化があったら、直ちにこちらに知らせる様に』


俺の気持ちを知らないであろう向こうは、淡々と命令を下した


命令は絶対…
逆らう事は許されない


窮屈な生活だな


だから上層部になんか…なりたくなかったんだ


『……分かりました。ところで…1つ…質問をいいですか?』


『…何だ?』


俺は以前から気になっていたことを思い切って聞いてみる事にした


『…何故、夜魅に真実を話してやらないんです……?』