親友の婚約者に恋をするなんて、

俺のプライドが許さない。

俺は、なるべく郁人と彼女に合うのを避け、

手近な女を誘っては気を紛らわした。

そのことで、周りでもめ事が起こり自分で嫌悪した。

その度に、「何やってんだ。」と郁人に窘められ、

情けない自分と向き合うことになる。

そして、自分の気持ちを認めざるを得ないことが起こった。


「郁人?どうした。」

「助手の佐々木さんが、盲腸で入院したらしい。」

「そうなんだ、調子悪そうだったもんな。」

「俺代りに教授について宮崎の学会に行くことになった。」

「なんで、院の先輩たちがいるじゃん。」

「論文俺が手伝ってから。」

「そうだったな、気をつけてな。」

「菜々美が捕まらないんだ。連絡とれない。

 春日、悪いが見つけて伝えてくれないか?

 あいつは、まだ一人でおいて置けないんだ。」

郁人の切実な目は、俺に替わりをやってくれと

訴えていた。過保護なのかと思っていたが、

事情がありそうだと察せられた。

初めて会ったとき、

郁人のシャツの端を掴んでいた震えた手を思い出していた。