日下先生の顔が、くしゃりと歪んだ。
いまにも泣きだしそうに。
そっと開かれた唇から、震える声が漏れ聴こえた。
「1つだけ、教えて欲しい。おまえは、何者なんだ……?」
ずっとずっと、隠してきた。
ずっとずっと、誤魔化してきた。
でも今ようやく、答えられるよ。
胸を張って、笑顔で答えられる。
「知ってるでしょ?
あたしは小鳥遊凛だよ。数学が超苦手な、先生の生徒だよ」
嘘じゃない。
これが真実。
あたしはあたし以外の、何者でもないんだ。
「そうか……」
うつむいた先生は、しばらくそのまま黙ったあと、おもむろに携帯電話を取り出した。


