あたしの迷いを見透かしたみたいに、抱きしめてくる力が強くなる。
「リン……」
唇が耳元に寄せられて。
切なげな声が、流し込まれる。
『るいち』が、あたしの名前を呼んでいる。
視界が歪んだ。
涙でいっぱいになった。
そろりと、両手を広い背中に回そうとした瞬間、
浮かんだのは、銀色の髪をした、幼なじみの顔だった。
「……先生っ!!」
すべてを振り切るように、目の前の体を突き飛ばして。
うつむいたまま、勢い良く立ちあがる。
とてもじゃないけど、いまは日下先生の顔が見られないよ。
「寝ぼけてたでしょ!? びっくりしたじゃん! プリント職員室の机に置いておいたから!」
早口でそれだけ言って、あたしは階段を駆け上がった。
扉が閉まる直前、名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど。
それがどっちのあたしを呼ぶ声だったのかは、わからなかった。
:
.
*
。
・
+
.
。
*
・
.


