誤魔化しきれるだろうか。
ここから、こんな必死な顔をした芽衣子を。
「あいつを『るいち』って呼ぶ奴は、いままで1人しかいなかった!
それにあんたあたしのこと昨日、『芽衣子』って言っただろ! なんであたしの名前を知ってた?」
「それは、みんながそう呼んでたから……」
「嘘つくな! 昨日いた奴らはみんな、あたしのことは辻って苗字で呼ぶんだよ!」
そうだった? みんな名前で呼んでなかった?
だめだ、全然思い出せない。
だって、あたしの中で『るいち』は『るいち』で
芽衣子は芽衣子だから。
それ以外の呼び名なんて、知らないから。
「家族以外で、あたしを芽衣子って呼ぶ奴はなあ! 今も昔も、あたしの親友『柏木リン』しかいねぇんだよ!」
真正面からあたしを睨みつけながら、そう叫んだ芽衣子の顔が、
次の瞬間、くしゃりと泣きそうに歪んだ。
そっと、震えながら、芽衣子があたしの肩に、顔をうずめてくる。


