あたしの家とるいちの家は、歩いて数10メートルの距離。
なのに勉強が終わったあと、るいちは「送る」ってしつこく言ってきた。
るいちの家の玄関で靴を履きながら、あたしは照れくさくて、わざとるいちを睨んだ。
「しつこいなぁ。いいってば。すぐ近くなんだし」
「うるせ。おまえ送れってうるせーババァがいんだよ」
「誰がババァですってぇ?」
「いってぇ!」
そっとるいちのうしろに立った、るいちのお母さんが、息子の頭をゴツンと殴った。
エプロンをつけた、長い髪の美人。
るいちは、お母さん似だ。
「もう暗いんだから、いくら近くても、送ってくのが男でしょ!」
「いや、おばさん、あたしは別に大丈夫……」
「だから送るつってんだろ! なんで殴んだよ!」
「ババァって言うからに決まってるでしょ!」
また拳をふりかざすおばさんに、るいちは舌打ちして、あたしの腕をがしりとつかんだ。
スニーカーに足をつっこんで、玄関を開けるるいち。


