昼休み。
あたしはまた、職員室に向かった。
数学の教科書と、ノートとペンを持って。
職員室をのぞいたら、目当ての人の姿がなかったから、
ひと気のない廊下を進んで、非常口のドアを開けた。
「日下先生、みーっけ!」
手すりに寄りかかりながら、空を見上げて煙草を吸っていた先生は、大げさに肩を跳ねさせた。
振り返って、じろりとこっちを睨んでくる。
「……なんだ、またおまえか。びっくりさせるなよ」
「先生が不良教師なのがいけないんじゃん」
「はは! そうだな。で、どうした?」
あたしは教科書をかかげて見せる。
こんなのは、もちろんただの口実なんだけど。
「さっそく勉強、教えてもらおうと思って」
「お? やる気だな。えらいえらい」
日下先生は煙草を携帯灰皿に入れて、あたしを手招きした。
ちょっと緊張しながら、階段を降りて先生の隣りに行く。
ふわりと薫る、煙草の匂い。
苦い苦い、大人の匂い。


