「文人っ、」





「ああ、ささか。はえーな。」



朝一番、話があると文人を呼び出した。
サークルの部屋で雑誌を読んでいた文人は、俺を見上げてニッと笑った。




「ああ・・・あのさ」





言わなくちゃ、いけない。
文人に、いっちゃんから告白されたことを。


・・・・でも、うまく、言えない。



こいつがどんだけ彼女の記憶が無くなったことにショックを受けていたか知っているから。



彼女が1週間入院している間、退院して復帰してしばらく経ってから。
いっちゃんはどんどん元気になっていったけれど、あいつは逆に昔より笑わなくなって、暗くなっていった。



今は少し元気を取り戻してくれたけど・・・。





「拓也。・・・言いたいことがあるんだろ?」
「っ!」

久しぶりに名前を呼ばれて、俺は何故かいけないことをしているような心境になった。
言わなきゃいけない。


俺たちは親友だ。
隠し事はナシだと昔約束したんだ。


そう、心の中で決心して、文人を真っ直ぐと見つめた。






「・・・いっちゃんに、告白された」
「そうか。」



文人は、雑誌を机の上に置いてから、同じように俺を見つめる。

「拓也、・・・いつかを、頼むな。」
「・・・・っ!」



何、言ってるんだよ・・文人?



「え、・・・?」
「俺、お前ならいつかを任せられる。・・いや、お前以外は嫌だ。お前はいつかのこと、嫌いか?」
「・・・嫌いじゃ、ない」
「なら、ダメか?」


ダメじゃ・・ない・・・。




俺は小さく呟く。



「だったら。・・・これは、俺の願いでもある。拓也、頼むよ」
「・・・わかった、でも・・・もし、いっちゃんがお前のことを思い出したら、すぐ・・」
「ありえねーよ、そんなの」



文人は特有の苦笑いを零し、雑誌をまた手にとって読みふけった。
俺はなんとなく、いたたまれなくなって部屋を出て自動販売機のある場所へ向かった。





朝の空気は、何故か少しさわやかで、切なかった。