有希は思いのほか聞きわけがよく、俺は車で有希をマンションまで送って行った。


 その途中、有希は明日の晩飯の話を盛んにしていた。俺達にはもう、明日はないのに。


 あっという間にマンションへ着いてしまった。


「じゃあ、おやすみなさい」と言って車を降りた有希を、俺は呼び止めた。そして俺も車から出て、有希に近付いて行った。


「なあに?」


 何も喋らない俺を、有希は首を傾げて見つめた。

 言わなければ……

 用意した別れの言葉を、俺は言わなければいけない。だが……クソッ!


「お、おじさん。どうしたの?」


 気付けば俺は、有希の体を抱き締めていた。