「アキラ……」
 呟くように彼の名を呼んだ。届いてはいけないと思っていた強い想い。あたしは自分勝手な理屈で誤魔化していたのかもしれない。
 今まで触れられるはずもなかった、そんなあたたかさや優しさ、愛おしさ。それに触れて、その幸せが怖かっただけなのかもしれない。

 何を怖れることがあるのだろう。
 相手はあたしが大好きなアキラなのに。

「アキラ……」
 自分の心にまで嘘を吐いてどうするの? あたしがオリジナルじゃなくても、そんなこと、彼は気にしていないって本当は知っていたのに。
 女将さんみたいにはなれなくても、あたしはあたしなのに。そんなあたしに、彼は遊びじゃないって言ってくれたのに。

 涙が頬を伝う。
 独り善がりなんかじゃない。求めてもらえていた。好きでいてくれる。幸せが怖いのは、幸せを失うのが怖いから。
 会いたい、会いたいよ。会って、アキラを抱き締めたい。アキラに抱き締められたい。

 頬を伝うその涙は、あたたかかった。