「……寝てなかったのかよ」
 ぼうっと彼を見詰めていたら、彼があたしに気付いた。するといつものように眉間に皺が寄って、無愛想になった。

「アキラこそ、寝ないの? 明日、3時間も運転するのに……」
「ん? ああ、毎日書いてないと不安になるんでな」
「不安って?」
「俺もよくは分からねえんだがよ、書いてないと駄目になるような気がしてな……」
 そう告げて、アキラはまたモニターに視線を向けた。仕事の日でもこんな感じで明け方まで書いているのだろうか。いや、きっと彼は書いているだろう。目指すものに対して全身全霊を注ぎ込むであろうことについては、確信が持てる。

 あたしは身体を起こして、シーツで身体を隠してから、彼の背中に抱きついた。アキラはあたしを見て、「どうした」と言ってくれた。

「書いてる時、可愛いね、アキラって」
「こんなおっさんに何言ってんだ。可愛いおっさんなんざ気持ち悪いだろーがよ」
「だって、子供みたいな顔してんだもん」
 彼の首筋から彼の汗の香りが漂ってくる。信じられないほどあたしの心を煽るそれは、きっとあたしにとっての媚薬なんだろう。

 思わず首筋にキスをしてそのまま舌を這わせた。彼の汗を味わっていると、アキラが振り向いて、そんなあたしをベッドに押し倒す。

「バカヤロ、興奮させんじゃねえ」
「だって、いい匂いがするんだもん」
 アキラはシーツを剥がすと、あたしの胸に顔を埋めて深呼吸をした。熱い息が胸元に当たって、背筋をぞくぞくと快感が走る。

 身体を震わせながらアキラを見詰めると、彼はあたしの胸元に舌を這わせながら、乳房を優しく愛撫してくれる。

 あれだけ愛してもらったのに、それでもまだ欲しいと思っている。もう何度ひとつになったのか分からない。それほどまでに何度も愛してもらった。それでも、あたしはもっともっとと彼を求めてしまう。こんな淫乱な女、きっと彼も呆れ切っているだろう。

 それでも、今だけは彼を独り占めできる。あたしという女を忘れないでいて欲しい。そして、あたしは抱かれることくらいしかできない。誇れるものなんて何も、何一つ持たない、そんな馬鹿なんだから。

 彼の指があたしの中に侵入してきた。

 瞬間、その強い快感に身体が強張ってしまった。でもその指がまるで煽るように優しく動くと、あたしはあっという間に蕩けてしまった。