君が隣にいれば (短編)

とは言え、本田くんとの距離が縮まったわけじゃない。

翌日になれば、彼は相変わらず人を寄せ付けなかったし、私も友達とおしゃべりしてばかりで、目も合わせなかった。

そのうち、あのときの本田くんの笑顔は、夢でも見てたんじゃないかとさえ思えてきて。

何の変化もないまま、数日が経った。


そんなある日の放課後。

晴乃に買い物に付き合わされた帰り道で、彼女は急にケータイをなくしたと言い出した。

「バッグの中もちゃんと探した?」

晴乃はもう一度バッグを確認した後、大きな目に涙を浮かばせながら首を横に振る。

仕方ないな。

私は自分のケータイを晴乃に渡して、彼女の番号に電話をかけさせた。

私もケータイに耳をくっつけて、誰かが出てくれるのを待つ。

数回コールした後、電話の向こうから男の人の声が聞こえてきた。
その途端。

「お姉ちゃんパス」

晴乃は私にケータイを押し付けた。

「え!ちょっと…」

見れば晴乃は私に向かって手を合わせて、お願いポーズをとってる。

もう。
面倒なことは全部私に押し付けるんだから。

仕方なく私はケータイを耳に当てた。

「すみません。
そのケータイを落とした者なんですが…」

どうやら、道端に落ちていたケータイが鳴ったので、とりあえず出てくれたようだった。

落とした場所は近かったので、すぐ取りに行くことにする。

「どんな人っぽい?」

待ち合わせた場所に向かう途中で晴乃が私に聞く。

「うーん。
落ち着いた声だったから年上かな」

私がそう答えた直後、晴乃がそうでもないみたい、とつぶやいた。

「うちの制服だもん」

晴乃の指差した先を見て、私は驚いた。

晴乃のケータイを持って立っていたのは、本田くんだったから。