君が隣にいれば (短編)

「俺は、雨って好きだけど」

私は驚いて本田くんを見上げた。

その勢いに面食らったのか、本田くんはちょっと照れてる。

別に本田くんは私のことを言った訳じゃないのに、何だか嬉しいと感じちゃったよ。

まずいな。

これって、かなりの自意識過剰だよね。

「…本田くんて、変わり者って言われない?」

私をハーフだと思い込んだ件といい、雨が好きだって発言といい。

「よく言われる」

本田くんは頷いた。

あ、また笑った。

本田くんの今までの印象が、さっきからどんどん変わっていく。

もちろん、いい方に。

何となくいい気分。

他の誰でもない、本田くんが、雨が好きだと言ってくれたことが嬉しかった。

雨粒が落ちる度に、本田くんの黒い傘がパラパラと音を立てる。

いつもだったら耳障りな音だなんて思うのに、今日は何だか心地がいい。


私はこのとき初めて、雨の日も悪くないかもしれないって思った。

だって。

雨が降らなかったら本田くんが教室に置き傘を取りにくることはなかったし。

こうやって話をすることも、一緒に帰ることもなかった。


私はもう一度、今度は気付かれないように横目で本田くんを見た。

よく見れば、今まで彼に抱いていた怖そうな印象は、切れ長の目のせいだったことに気付く。

だけど、笑うとあの目尻が優しく下がることを知った今は、ちっとも怖くない。

どれだけ高いんだろうと思ってた身長も、私の頭一つ分と少し高いんだと分かった。

意外と天然だってことも知った。


私は、何となく、本田くんのことをもっと知りたいと思った。