君が隣にいれば (短編)

下駄箱で革靴に履き代えながら空を見上げた私は、雨止まなかったな、とため息をついた。

「傘ないの?」

そう聞かれて頷くと、本田くんは、

「雨女なのに」

なんてつぶやきながら、折りたたみ傘を開いた。

別に名前に雨が付くだけで、雨女ってわけじゃないんだけど。

本田くんて天然なのかなぁ。

そんなことを思ってたら、本田くんは傘を少し持ち上げて言った。

「入んないの?」

「いいの?」

「そりゃ、この状況で置いてけないだろ」

本田くんは苦笑すると、早く来い、と言うように手招きする。

雑用を手伝ってもらった上に、傘にまで入れてもらうなんて、迷惑かけっぱなしだけど。

雨が止む気配はないし、お言葉に甘えて彼の傘にするりと入り込んだ。

やっぱり背が高いなぁ。

私より、優に頭一つ大きい本田くんを見上げながら思う。

私の視線に気付いたのか、本田くんは不思議そうに私を見た。

「何?」

「身長高いなぁと思って」

そう言うと本田くんはまあね、と言った。

何だろう、この感じ。

本田くんの周りだけゆっくり時間が流れてるような、不思議な空気。

すごく心地好い。

「雨、早く止むといいね」

私はぽつりとつぶやいた。

「そう?何で?」

てっきり頷くもんだと思ってたから、本田くんに聞き返されて驚いた。

「だって。
晴れた方がいいじゃん」

みんなに愛される晴れと嫌われ者の雨。

なんとなく私は晴乃と自分を重ねてそう言った。

別に卑屈になって言った訳じゃなくて、ただの一般論。

「誰だって雨より晴れの方が好きでしょ?」

だけど本田くんは意外な言葉を口にした。