君が隣にいれば (短編)

本田くんはその後もずっと、私のとりとめのない話を、適度に相槌をうちながら聞いてくれてた。

そんなとき。

「「―――でね、晴乃がね」」

急に、私の声と本田くんの声が重なった。

「え?」

びっくりして本田くんを見ると、ククッと声を殺して笑ってる。

「さっきから渡辺、妹の話ばっか」

私は口をつぐんだ。

私ってば、あんまり親しくもない本田くんに何話してんだろう。

本田くんて意外に話しやすかったから、つい調子に乗っちゃったみたい。

「ごめん!
つまらなかったよね」

私が言うと、本田くんは笑って言った。

「いや、そうでもない。
渡辺がどんだけ妹が好きか、よく分かった」

そのときの本田くんの笑顔はきっと忘れない。

口角が上がるのと対照的に目尻が下がって。

子供みたいに、くしゃって笑ったの。

普段あんまり笑わない人の笑顔って珍しいからか、すごい威力。

「本田くんて、そういうふうに笑うんだ…」

見とれてしまった私は、思わずそんな間抜けな感想を口にしてしまった。

途端に本田くんは真っ赤になって顔を背ける。

「あんまり見んな」

うわ。
今度は照れてる。

私今、すごい貴重なものを見てるかも。

だって、あの、無口で無愛想な(失礼)本田くんだよ?

ケータイに保存しておきたいくらい、かわいい。

そのとき、扉が開いてフジコちゃんが顔を出した。

「遅くなってごめん。
渡辺さん、ありがとねー!」

私たちはフジコちゃんにお礼の紙パックのジュース(意外とケチ)をおごってもらって、帰ることになった。