君が隣にいれば (短編)

教室にパチンパチン、と無機質な音が響く。

さっきから、私が順番を揃えて渡したプリントの束を本田くんがホチキスで綴じる、の繰り返し。

二人だと作業はサクサク進むけど、何となく気まずい。

実は本田くんとちゃんと話したのは、さっきが初めてだった。

挨拶を交わしたことはあるけど、正直私の名前をよく知ってたな、と思ったくらい。

本田くんは無口であまり人を寄せ付けないタイプだから、何となく怖い印象を持ってた。

だけどこんな雑用を手伝ってくれるところを見ると、そうでもないみたい。

「渡辺ってさ、ハーフ?」

突然本田くんがそんなことを聞いてきた。

「へ?」

私は目を丸くして驚いた。

「両親とも生粋の日本人だけど何で?」

晴乃は顔立ちがはっきりしてるからたまにハーフに間違えられるけど、私は悲しいかな純日本顔。

今までそんなの言われたことなかった。

「いつも周りのやつが、渡辺のこと、ミューとかミューちゃんって呼ぶじゃん」

「ああ!」

私は納得して笑ってしまった。

「ミウだよ。
美しい雨って書いて、ミウ。
私、雨の日に生まれたんだって」

本田くんはなるほど、と言った。

「どこの国のやつかと思ってた」

ぽつりとつぶやく本田くんに、私は笑いを堪えられない。

本田くんて、意外と愉快な人だったんだ。

知らなかった。

「妹の名前は晴乃って言うんだけど、安易なネーミングでしょ」

さっきの本田くんの間抜けな思い込みで一気に緊張が解けたみたい。

本当に晴れと雨みたいに、私たちは見た目も性格も全く違うことも。

雨なんて嫌な名前を付けられて私は迷惑してるなんて愚痴まで。

一向に止む気配のない雨の音を聞きながら、私は本田くんにたくさんのことを話した。