君が隣にいれば (短編)

「私って、本田くんのこと好きだったんだ…」

保健の先生に聞こえないよう、小さな声でつぶやいてみる。

言葉にした途端、胸のつかえが取れたのか、痛みがするっと消えていく。

でも、何でなんだろう。

私は指折り数えながら考える。

フジコちゃんの雑用を手伝ってくれた雨の日でしょ。

カフェでお茶した昨日でしょ。

ちゃんと話をしたことなんて、たった二回しかないのに。

だけど何となく自覚はあった。


みんなから愛される晴れは晴乃で、嫌われ者の雨は私。

甘やかされるのは晴乃で、我慢するのは私。

小さい頃から受け入れてたつもりで、本当はずっと晴乃に嫉妬してたの。

だから、本田くんが雨を好きだと言ったとき、すごく嬉しかった。

晴れみたいにみんなに愛されなくても、雨が好きな変わり者もいるから大丈夫って言ってもらえた気がしたの。


その変わり者が、本田くんだったら良かったんだけどな。

なんて。

残念だけど、この恋はもう終わり。

だって、晴乃が本田くんを好きなんだもん。


本田くんの隣で嬉しそうに笑う晴乃を見てれば、鈍い私でもさすがに分かる。

アキちゃんだって言ってたじゃん、二人はお似合いだって。

私もそう思うよ。

奮発して買ったあのワンピみたいに、本田くんにも晴乃の方が私の何倍も似合ってるって。

私には勿体ないって。


これまで何だって晴乃に譲ってきたんだもん。

本田くんを諦めるくらい、なんてことない。

ていうか、そもそも本田くんは私のものじゃないか。

そんなこと言ったら、お前の所有物じゃないんだけど、なんてつっこまれそう。

私は本田くんの膨れた顔を想像して思わず笑ってしまった。


せっかくだからベッドで一眠りしよう。

目を覚ましたら、本田くんへの思いをきっぱり諦めよう。

そう思いながら目を閉じた。