君が隣にいれば (短編)

「お風呂空いたよー」

タオルで髪を乾かしながら晴乃がリビングに顔を出した。

湯上がりで頬を紅潮させた晴乃は一段とかわいく見える。

「じゃあ私も入ろ」

私はそう言うと、テレビを消して立ち上がった。

晴乃は冷蔵庫から出した麦茶をグラスにトポトポ注ぎながら、

「ねぇ美雨ちゃん。
本田先輩って、彼女いるの?」

突然そんなことを聞いた。

「え?」

「だから、恋人いるのかなって」

そんなこと考えたこともなかった。

ていうか、私はクラスメイトってだけで、本田くんのこと全然知らないんだけど。

「どうかな。
あんまり女の子と一緒にいるの見たことないし。
いないと思うけど…」

私がそう答えたら、晴乃は小声で、

「やった」

とつぶやいた。

え?
今のってどういう意味?

そう確かめる間もなく、晴乃はグラスを片手に自分の部屋に戻ってしまった。


私がその言葉の意味を理解できたのは翌日だった。

昼休み。
お弁当を食べ終わり、いつも通り教室でおしゃべりしていると、ふと友達のアキちゃんが廊下を指差した。

「あ、美雨。
晴乃ちゃん来てるよ」

「え、本当?」

振り返ると、晴乃は廊下から教室の中を窺ってる。

晴乃は辞書とか体操着を忘れると私によく頼ってくる。

今日は一体何を忘れたんだろう、そう思って立ち上がったとき。

「あ!
本田センパイ!」

晴乃はそのかわいい声で、教室の隅で大あくびをしていた本田くんの名前を呼んだ。

本田くんは自分が呼ばれたのが信じられないようで、「俺?」なんて首を傾げながら晴乃の元へ歩いていく。

そのとき何でだろう。

私の胸が急にモヤモヤし始めた。