君が隣にいれば (短編)

しばらくして、店員さんが飲み物と数種類のケーキを運んで来た。

レディースデーのサービスなんだって。ラッキー。

私は苺のショートケーキを、晴乃はベイクドチーズケーキを選んだ。

私は好きなものを最後までとっておくタイプ。

残しておいた苺をさぁ食べるぞ、と思ったとき。

「美雨ちゃんの苺いいなー」

晴乃が羨ましそうに私を見た。

自分もショートケーキにすれば良かったのに。

とは言え、いつものことだから私は仕方なく苺の載ったお皿を、晴乃に差し出す。

「…食べる?」

晴乃の顔が輝く。

私って本当、この笑顔に弱い。


私たちばっかりお腹いっぱいで、本田くんへのお礼になったか怪しいけど、コーヒーを飲んだ私たちは店を出ることにした。

晴乃が化粧を直しに行ってる間、私は聞いてみた。

「晴乃、かわいいでしょ」

本田くんは少し考えた後、答える。

「ま、な。
俺のタイプとは違うけど」

晴乃がタイプじゃないなんて、本当に変わってる。

どんな子が好きなのか聞こうとしたとき、

「そういや、良かったの?苺」

ふと本田くんが聞いてきた。

「好きでとっておいたんじゃないの?」

バレてたの?

うわー。恥ずかしい。

「私、晴乃のおねだりに弱いんだよね。
何でも欲しがるから、私も譲るのが癖になっちゃって」

私は頭を掻く。

「お気に入りの服も靴も、実際は晴乃のものになってるってパターン」

私の言葉に本田くんは驚いた顔をする。

「悔しくないの?」

私は少し考えてから首を振る。

「だって、晴乃の方が私の何倍も似合うんだもん」

私はこの間のワンピを思い出しながら言う。

「それ見てたら、私には勿体なく思えてくるっていうか」

本田くんはふうん、と鼻を鳴らす。

「もし、どうしても渡したくないものができたらどうすんの?
それでも渡辺は、自慢の妹には譲るの?」


どうしても渡したくないもの?

そんなの想像もつかない。

そんなことを思ってるうちに、晴乃は戻ってきた。