君が隣にいれば (短編)

「本田くん!」

私の声で顔を上げた本田くんも、びっくりした様子でこっちを見てる。

「あれ。
じゃあ、このケータイって渡辺の?」

「うん、妹の」

私が言うと、本田くんはそっか、と晴乃にケータイを手渡した。

「美雨ちゃんの知り合い?」

私と本田くんの顔を見比べる晴乃に、私は頷く。

「クラスメイトの本田くん。
あ、こっちは妹の晴乃」

私が言うと晴乃はペこりと頭を下げた。

「―――これが例の妹か…」

本田くんはそうつぶやくと笑った。

あ、本田くんの笑顔、久しぶり。

やっぱりあのとき見たのは、夢なんかじゃなかったんだ。


その後、ケータイを拾ってくれたお礼に、私たちは本田くんにカフェでコーヒーをご馳走することにした。

テーブルに着き、店員さんに注文を聞かれたとき、

「「ブレンド」」

私と本田くんの声が重なった。

そういえば、前にもこんなことあったな。

「ブレンド2つですね」

店員さんがクスクス笑うのが恥ずかしかったのか、本田くんは少し膨れる。

「真似すんなよ」

本田くんて、結構子供っぽいとこあるよね。

そんなこと言って、もっと不機嫌になっても困るから黙っておこ。

「私はキャラメルミルクティー下さい」

晴乃は、私の可愛いげのなさが際立つようなものを頼んで微笑んだ。

女子力ってこういうところで顕著に現れるんだなぁ、と思わず反省してしまう。

気付けば周りのお客さんが、さっきから晴乃をちらちらと見てる。

晴乃くらい可愛ければ目立つよね。

だけど、目の前の本田くんだけは、晴乃の外見なんて気にする様子もない。

彼の穏やかな視線を見てると、私たちを同等に扱ってくれてるのが分かる。


晴乃を贔屓しない、変わり者の本田くん。

やっぱり本田くんの空気って、すごく心地いい。