漆黒の黒般若

部屋の中は暗くて沈み終わろうとしている夕陽がほんの少し光を差し込ませる


「坂下…」


夕日に照らされた顔には泣いた後が見受けられる


布団も引かずに畳の上に倒れるように眠っている彼女が真っ先に目に入った


「はぁ…」


そっと彼女に近寄り
羽織をかけてあげた


長いまつげが湿っている

どれだけ泣いたのだろうか
つぶった目は赤く腫れている

「全く…。また１人で悩んでいるのか？」


幼い寝顔をした彼女に問いかける

そっと髪をすけば
さらりと長い髪が
落ちて行く


その時坂下の目からまた涙が溢れた

頬を伝う涙は下の畳の染みとなる


「…祐。ごめんね」


彼女の口からすすり泣きとともに言葉が漏れる


「…祐、祐っ

行かないでっ。

あたしを置いてかないでよ

一人はさみしいょ…」

それは胸が締め付けられるような叫びかただった


「坂下っ、坂下！」


悪夢から覚ましてやりたい一心で体を揺さぶる


「行かないでっ」

次の瞬間胸の辺りに衝撃が走った


下を見下ろせばカタカタと肩を揺わせ震える坂下がすがるように抱きついている

「っ。ふぇっ。うぅ…」

嗚咽を漏らしながら
泣きじゃくる彼女の手はギュッと俺の着物の裾を握っている


俺はなにも言わず小さな坂下を抱き締めた


想像以上に細い彼女は力を込めればすぐにでも潰してしまいそうで
優しく抱き締める


こんなに小さい体で一体どれだけのものを抱え込んでいるのだろうか


頼る相手もいなく

周りは誰も信じず殺し屋として生きていた1年

相当辛かっただろう

その気持ちは計り知れない

そのうち彼女は泣き止んだらしく

俺の体を軽く手で押し離すと「ごめんなさい」といって涙をぬぐった



「坂下…「あたしもう大丈夫ですから、ご心配かけてしまってすみません」

そう言った彼女の顔には
やはり嘘くさい笑顔がはりついている


「大丈夫ではないのだろう。なぜ、嘘をつく？」

さっきまであんなに震えていたのに
あんなに泣いていたのに

平常心を保とうとする彼女に怒りが込み上げる