漆黒の黒般若

さっきは本当にヒヤヒヤした


遅い坂下を探しに廊下にでると向こうから芹沢さんが来るのが見える


坂下と鉢合わせては不味いと思い
急いで彼女の姿を探したのだが曲がり角で芹沢さんにぶつかって倒れてしまった坂下が見えて
出遅れであったことがわかった


うまく切り抜けてくれと願うも坂下にそんな器用なことができるはずもなく


彼女は芹沢さんをひっぱたいた


しまった!

と思い俺は2人のほうに急いで向う


しかし…

ドンッ!

坂下は思いっきり突き飛ばされた


さっきまで焦りだった気持ちが憎しみに変わった瞬間だった


振り上げた芹沢さんの手を掴むと小さく構えた彼女を抱きしめる

彼と目があったが怖いとは思わなかった


彼は彼女が気に入ったと言い残しその場を去っていった


芹沢さんに気に入られた女達がどのようなことになったか今まで見てきた斎藤は彼女だけは守らなくてはと心に誓った


普通の娘なら泣いてしまうだろう


しかし、楠葉は涙ひとつ見せない

怖かったら泣いてもかまわないと言いたかったのだが今、自分が彼女を抱きしめている状況に驚きそれどころではなかった


真っ赤になってかけていってしまった楠葉を見送ると少しは本当の表情をだせられるようになったんだと安心する

しかし、彼女は未だに本当の笑顔をみせない


彼女の笑顔は偽物だろう

いつも気を使って笑っているがそれはどこか悲しそうである


彼女はどうやったら心から笑ってくれるのだろうか


夜風は火照った斎藤の頬をいつのまにか冷ましてくれる


「はぁ…。俺も戻るとするか」


ため息を残し、さっき楠葉が走っていった廊下を進んだ


宴会が行われている大広間はどんちゃん騒ぎで
甘ったるい酒のにおいが充満している


またもや口から漏れだすため息は宙をさ迷う


何気にきょろきょろと見渡してみると
すみに座っていた総司が立ち上がりどこかに向かって歩きだす

また副長のとこにからかいに行くのかと思い呆れたのもつかの間


彼は何故か副長のいるところとは別の方向にむかう
その方向を見ると楠葉が佐ノに絡まれている


酒癖の悪い佐ノに苦笑いで対応する楠葉はその場から逃げ出したそうだ


楠葉のことになるとついほっとけなくなってしまう斎藤は2人のところに近づき始めた


しかしあと少しの所で総司が彼女の腕を掴むと連れていってしまった


楠葉を連れていかれた佐ノと俺は呆然と総司と楠葉を見つめたのであった