漆黒の黒般若

「いつのまにかあたしも売られてた


2番目のねぇちゃんが売られてからはあんまり記憶がないんだよ


ただ覚えているのは人売り屋にもらった金を見て何の柄の着物を買おうかと悩む母親の姿だった


そこからあたしは江戸の吉原っていう遊廓で禿として住んでいたけど、あたしがついてた姐さんが自殺して

確か、2人立て続けに死んだんだよ


だからそんな姐さん達の禿だったあたしは不吉だとされて島原に売られたんだ


っで、たどり着いたのがここってわけだ」


最後はおどけたように笑ったお信さんだったがあたしはとても笑うことが出来ない話に唖然としていた


こうしてすぐに笑い飛ばすのはお信さんのいいところだがそれはぎゃくに悪いところなのではないかと思ってしまう


こうして、周りに弱みは見せないで一人で抱え込んでしまうのはよくないと楠葉はわかっていた


お信さんの笑顔が“嘘笑い”には見えなかったが今まで無理してきたのは確かだった


「一人で抱え込んでしまうのはよくないです」


急に口を開いた楠葉に山南さんは少し驚いていたが、お信さんはだまって聞いてくれた


「あたしも、そういうところがあるから…。でも、思いきって誰かに甘えることも時には大切だって新撰組の人たちが教えてくれました。たまには泣いてもいいんですよ」


「楠葉ちゃんは甘えて楽になった?」


「はい」


「そう…、でも楠葉ちゃんの顔みたら元気出たからもう大丈夫だよ」


そう言うお信さんの顔にもう不安の色はないように思えた


パンっ


「もう、辛気くさい話はやめて楽しみましょう。せっかく来たんです」


突然手を叩いた山南さんは困ったように笑ってとくっりをふってみせた