「今日はあんたとゆっくりしようと思ってたんだ」


「わっ、ひゃっ。くすぐったいってば」



「坂下、聞いてるか?」


「へっ?ごめんなさい。もう一回言ってもらってもいいですか」


「そ、そのだな…俺は、今日坂下とっ…なんでもない。気にするな…」



「そうですか?すみません」


斎藤は言いかけてた言葉を押し殺すと少し赤くなった顔を下に向けた


目の前では楠葉と拾ってきた子犬がじゃれている


子犬はよかったみたいで予想以上に楠葉は喜んだ


そんな楠葉を見て嬉しくなった斎藤だったが先程から楠葉が子犬ばかりを相手にするので少しすねていた



「斎藤さんっ」



やっと自分の名前が呼ばれて期待して振り返ったのだったが


「この子の名前どうします?」



笑顔で聞いてきたのはまたも犬のことだった



「なんでもいいだろう、そんなもの」


「斎藤さん?何おこってるんですか?」


「おこってなどいない」


「でも…」


機嫌の直らない斎藤に楠葉の顔は悲しそうなものにかわってゆく


「わかった、わかった。名前だな?えーっと、太郎とかどうだ?」


「太郎?ですか…?どう?太郎」


楠葉が試しに犬を呼んでみる


しかし子犬はふいっとそっぽを向いてしまった



「太郎は嫌みたいですよ?」


「全く、犬のくせに贅沢だな。では、こてつはどうだ?」


「こてつ?誰かの名前ですか?」


「こてつっていうのは刀の名前だ。俺もいつかは持ってみたいと思っているが、なにせ名刀中の名刀。いいものにはそれなりの値がつくものだ」


「こてつっ。こてつはどう?」


「わんっ」


「わぁっ。斎藤さん!こてつでいいそうですよ!」


「ふんっ。こてつなんていい名前、犬につけるなんて勿体ないがな」


「よかったね、こてつ」


「わんっ」


こうして斎藤の部屋にまた1匹居候が増えたのであった