楠葉が来てから1年がたとうとしていた



この時代の夏は暑い


まだ6月だというのにその暑さは現代っ子の楠葉には耐え難い苦痛だった



「ク、クーラー…」



1人縁側に寝転がり涼しい場所を求めて転がり続ける楠葉の口からは幕末には存在しない電化製品の数々がこぼれ落ちる



「アイス…」


「扇風機…」


「保冷剤…」


「坂下。さっきからなんだブツブツと…?大丈夫か?」


見かねた斎藤さんがうちわであおいでくれる


ここは小姓としてピシッとしなくてはいけないのだが理性がほぼ壊滅状態の楠葉にそれは無理難題だった



「さ、斎藤さん…。暑いです…」


「それは夏だから仕方のないことだ」


「そうですけどぉ…」


「我慢しろ」


「もぅ無理です!溶けちゃいます、暑い、暑い〜」



ついにはぐずり始めてしまった楠葉を斎藤は困り果てた様子で見守っていたがすぐになにかを思いついたように笑うと楠葉に近づき耳打ちする


その瞬間楠葉は起きあがり真っ赤になった顔でわなわなと斎藤さんを見つめた