漆黒の黒般若

芹沢の顔が想像できない


彼は今どんな顔をしているのだろうか



「お前は、どうしたいんだ?」



「あたしは、あんたと…暮らしたい」


「そうか、なら住め」



「あんたねぇ、あたしの話を聞いていたのかい?だからあたしが勝手に家を出てきちゃまずいんだよ。それに主人が絶対に連れ戻しに来る…」




「だったら俺が説得してやるよ」



「あんたが主人を説得?どうせ暴力で黙らせるんだろ?」



「ちげぇよ。しっかり話し合うつもりだ。お梅をくれってな」



「なんだいそれは親への挨拶かなんかと間違えてないかい?」



「ふんっ、とりあえず今日はここに泊まれ」




そう言うと芹沢は立ち上がりあたしの前まで来ると手をとった



「なんだ、頬も殴られたのか?赤いじゃねぇか…。腕、見せてみろ」



しぶしぶ見せたお梅の腕に芹沢は絶句する



白く細い腕にはたくさんの痣が痛々しく浮かんでいた


「辛かったな…。毎日耐えたのか?もっと早く俺に言えよ」



そう言った芹沢の目にはうっすら涙が浮かんでいる


腕を優しく擦りながら眉をひそめる彼の顔には後悔の色があった



「あんたが気にすることじゃないさ。あたしが悪いんだよ。気にすることない」



「誰がっ!誰が愛する女が痣だらけだってのに気にせずにいられるか!おまえが辛いなら俺が何とかする!だから、もう一人で抱え込むんじゃねぇ」



そんな芹沢はあたしを抱き締める



あの時と同じように



優しく、まるで壊れ物でも扱うように



そんな彼の優しさに涙が溢れた


本当はずっと辛かった


芹沢に助けてほしかった



でも、それはできなかった


芹沢に余計な心配をかけたくなかった



好きだからこそ…



言えなかった




互いの相手を愛する思いが裏目にでてしまっていた



そんな2人の不器用な愛は暖かい日差しに見守られながら何度も何度もお互いを求めあった