「お帰りなさい!」
にっこり笑って二人に声をかけたおねぇーに、航太君よりも速く駆け寄ったのは稜君。
「美青ちゃん! ただいまぁー!!」
むー……。
そして稜君は、おねぇーに向けたキラキラの瞳のまま私に向き直る。
「美月ちゃん、ただいま!」
目の前まで歩いてきて、顔を覗き込みながら、優しい声でそんな風に言うから。
「……お帰り、なさい」
さっきまでの“むー”っとした気持ちは一気に吹っ飛んで。
今度は恥ずかしくなってしまって、私の口から零れる言葉は、こんなにも可愛くないものになっちゃうんだ。
だけど、様子を覗うように上目使いで彼の顔を見上げる私に、満足そうに微笑んだ稜君は“手ー洗ってくる!”と、元気よく宣言をして、洗面所に向かった。
「川崎君、元気そうだけどねぇ」
稜君に聞こえないように、小さな声で呟くおねぇーに、航太君がちょっと考え込んで、少し困ったように笑う。
「あれはカラ元気だろ」
“カラ元気”かー……。
言われてみればそんな気もするけれど、あまりよくわからない。
何だかんだ言いながらも、稜君の事を多分すごく理解している航太君が言うんだから、きっと稜君のあれはカラ元気なのだろう。
「まだ、理由わからないの?」
どうしても気になってしまう私は、航太君にコソッと訊ねてみたんだけど、彼はちょっと困った顔のまま、
「そうなんですよねー……」
それ以上口にすることはなかった。