駅から徒歩十分かからないと言われた道のりを、歩くこと二十数分。


「到着ー!」

やっぱり道に迷いまくっていたらしいおねぇーは、まるで何事もなかったかのように、稜君の家の玄関にドサリと荷物を下ろした。


「ホントに勝手に入っていいの?」

「ねー。ちょっと気が引けるよね……」

鍵を開けて玄関まで入っておいて、今更だけど。

二人で顔を見合わせながら、ちょっと考え込む。


「そうだっ! 美月、川崎君に電話してみてよ!」

「はぁ!? 何で私っ!?」

おねぇーの突然の発言に、つい大きな声を上げてしまう。


「だって私、川崎君の連絡先知らないし」

なぬー……。

「……わかった」

連絡先を知らないなら、しょうがない。

でも、何気に稜君に電話するのは“最上事件”以来で、ちょっと緊張する。


鞄から携帯を取り出して、横からおねぇーの視線を感じながらも稜君の名前を呼び出して、通話をタップする。


「……」

だけど、耳に届くのは鳴り続ける呼び出し音ばかりで、彼が出る気配はない。

「……出なかった」

そう言って、携帯をポケットにしまい込んだ。


「そっかぁ。もう練習は終わってる気がするんだけどなー」

おねぇーが腕時計を見ながらそう呟いて、ちょっと首を傾げたその時。


~♪~♪♪~♪~

「――あ、稜君だ」

一度閉じた小さな画面に表示される“川崎 稜”の文字。

私は隣のおねぇーにバレないよう、こっそり息を吐き出してから通話を押した。


「もしもし」

「あ、もしもし? 稜だけど!」

そう言った稜君の後ろからは、ざわざわと騒がしい人の話し声が聞こえている。


「あー、ごめん。まだ練習中?」

ドキドキをひた隠して、平静を装う私に、

「ううん! 今終わったトコ! シャワー浴びてて、電話出られなかったー」

と、さっきの電話に出られなかった経緯を話した彼は「」さどうしたの?」と、前と同じように優しい声をかけたんだ。