杉本マネージャーのその話が、どうしたら私に繋がるのか。
さっぱりわからないでいる私の耳に、信じられない言葉が届いた。
「佐々木さんを、本店に呼ぼうと思ってる」
「へっ!? 私ですか?」
「あれ? 意外と喜ばなかった」
私の反応に、笑う杉本マネージャーは想像していたより感情豊かな印象を受ける。
「い、いえっ! 嬉しいです! 嬉しいのですが……」
「ん?」
「私でいいんでしょうか?」
「もちろん」
「何故、私なんでしょうか?」
だって、私よりも売上が良くて、仕事の出来る人なんていっぱいいるはず。
「俺、いつも色んな店舗回ってるだろ?」
「はい」
「いつも無意識に、スタッフの接客態度のチェックしちゃうんだよね」
それも含めて“エリアマネージャー”の仕事なんだろうけど……。
いつも忙しいそうにやって来て、店長と話をして次の店舗に向かうイメージだっただけに、そんな事もしていたのかと少し驚いた。
「結構いるんだよ」
「え?」
「俺がいる時だけ、すっげー頑張ってるスタッフ」
目の前の杉本マネージャーは、フーッと息を吐き出しながら、困ったように笑う。
「実はね、時々裏に来て、監視カメラとか覗いてるんだー」
「えぇっっ!?」
驚きのあまり、大声を上げる私の目の前には、いたずらっ子のように笑う杉本マネージャーの顔があった。
だけど、すぐにそれを引き締め直して真面目な表情を浮かべる。
「これでも一応、人を見る目は確かだと思ってる」
「……」
「佐々木さんは、いつだってお客様の為に一生懸命頑張ってるの、知ってるよ?」
「あ……ありがとうございます」
「だから、一緒に本店に連れて行く。もう決めたから」
断言した彼の顔は、自信に満ちた“仕事をする男”の顔で、本当にほんの少しだけ、他の女子社員の気持ちがわかった気がした。
「そんなわけで、もうちょっとしたら辞令おりるから。ヨロシク!」
突然のことにワタワタする私を見て、やっぱり楽しそうに笑って去って行った杉本マネージャーの言葉通り、その数日後、よくわからないまま、本店への移動が命じられたんだ。