‡〜俺の生き方〜‡

”北の森”

昔俺が一番行きたかった場所だ。
その森に行けば、死ねると思った。
死ねないとしても、その奥へは誰も近づかない。
静に暮らせる。

エルフと人の混血として生まれた俺は、エルフよりも丈夫で、人間よりも遥かに長く生きる。
だから、エルフの国に行けば病気にかかりにくく、怪我の治りの速い事を羨まれる。
人間の国に行けば、長命であること、”魔力”が生まれつき桁外れに強い事を羨まれる。

バカバカしい。

俺は人間に生まれたかった。
純血のエルフに生まれたかった。

長い時を生きるのは、はっきり言って鬱陶しい。
せめてエルフとして生まれていたら、俺の中の時の流れも違ったかもしれない。
人間はバカだが、俺は嫌いじゃない。
人生の中で一瞬煌めいて、もがき苦しんであっと言う間に死んでいく。
そんな”花”のような人間の生き様が気に入っている。

あいつを気に入ったのは、そんな”花”のような生き方ができるヤツだからだと思っていた。

あいつを初めて見た時、美しいと思った。
俺の”闘舞”を完璧に舞っていた。
森の広場。
光の降り注ぐ中、楽しそうに舞う子ども。
他人との関わりを嫌う俺が、珍しく興味をもって、自ら関わろうと思った唯一の”人間”。

時には哀愁を帯びた表情。
時にははにかむような笑顔。
時には艶目いた顔。
時には憎悪した…。

たくさんの表情は、俺の前でだけするものだと知った時、何とも言えない高揚感が貫いたのを覚えている。

愛しくて。
側にいたくて。

師匠と呼ばれる事に最後まで抵抗したのは、そんな関係じゃなくて、もっと違う関係になりたかったからだ。

愛していた。

初めて芽生えた感情だった。

何百と違う年齢差に正気かと己自身に問いかけた事が幾度あっただろうか。
まだ子どもだ。
だが、一瞬で大人になるだろう。
楽しみだった。
成長していくあいつは日ごとに様々な事を吸収して美しくなっていく。
俺の人生の中で最高に幸せな時間。
そんな時ふと思い至ってしまったのだ。
あいつの死を俺は耐えられるだろうか…と。
怖くなった。
だからその不安を紛らわす為に幾度となく旅に出た。
旅に出ると不安は紛れ、途端に会いたくなる。
そしてふらっと帰ると、あいつは困り顔で迎えてくれる。

そう、だからあの時も何も疑いもしなかった。