‡〜知るべき想い〜‡

「ウルじぃ。
居る…?」
〔居りますぞ。
…うかない顔ですな
悩んでおられるのですか…〕

カイを連れて訪れてから一週間が経った。
私にしては珍しく、決心するのに時間がかかったようだ。

「扉は…あの国へ続く扉の場所は知っているんだ…けど、どうしても決心がつかなかった…。
本当は、関わるべきじゃないんだ…。
私は死んだ人間で、この生を”蒼葉”として生きるべきだから…。
でも…」
〔姫は変わりましたな…。
全てを投げ出してしまわれたあの頃とは違う…嬉しく思います〕

そうして優しく微笑む姿は、あの頃会った時のままで、胸が締め付けられるほど懐かしい。

「思えば、ウルじぃには色んな話をしてもらった。
なのに、あの頃の私は愚かで、その本当の意味を知ろうと…考えようとしなかった。
わかっていたようで、何一つ理解していなかった…」
〔そんなものです。
あの頃の姫は、とてもお寂しそうに見えました。
わたくしは、それが辛かった。
その寂しさを除く事ができないわたくし自身を虚しく思っておりました…〕
「ごめんなさい…。
私は、たくさんの人に不快な思いをさせていたんだね」
〔ほほっ。
そう言われる所は変わっていらっしゃらない。
姫。
あなたは、”愛する”事を知っていた。
けれど、同時に知るべき、”愛される”事を知らずにおられた。
ご自分が”愛されている”事に気づこうとしなかった。
とても、とても近くにあったと言うのに…〕
「…師匠、アクラ、最後までついて来てくれた騎士達…兄上や姉上達…多くの者が想いを向けてくれていたんだね…。
私はそれに気付かなかった…。
アクラやグルーヴの手紙を読んでようやく気付いたんだ…」

知らなかったのだ。
確かに誰かを愛しいと…護りたい者だと思う事はあった。
だが、自分にも同じ想いを向けてくれていたなどとは思わなかった。
いや、思えなかったのだ。
両親から愛されない運命。
最初から今まで、何度転生しても、それを知る事はできなかった。
今生で初めて知ったのだ。
だからこそ気付いたのかもしれない。

私は愛されていた…と。