‡〜生家へ〜‡

父が予想した通り、しばらくして祖父から電話があった。
明日にでもゆっくり会って話がしたいと言われ、会いに行く約束をした。

翌日、一人祖父の屋敷へと向かった。
私の生家である屋敷は、美しい洋館だ、
今私の住んでいる屋敷よりも二回りほど大きい。
祖父や父が気晴らしと言ってはしょっちゅうリフォームをするが、ごちゃごちゃとしてしまうわけではない。
中はシンプルで生活しやすく、外装の整備も怠らない。
使用人も多く、皆生き生きと働いてくれている。
今は祖父と父がこの屋敷で生活している。
母は祖母と独自に世界一周の旅に出ていて、もう一年帰って来ていないのだ。
父は婿養子とは思えないくらい祖父と仲が良い。
長年苦楽を共にしてきた仕事仲間であり、親子である。
だからではないが、性格も似ていたりする。

「蒼葉、よく来たな〜」
「こんにちは、お祖父様。
ご心配をお掛けしたようで、申し訳ありません」
「まったく蒼葉は、みずくさいね〜。
そう言う所は妻にそっくりだ」
「?お祖母様に似ているとは、初めて言われました…?」
「ふっふっふっ。
そう言うところだよ」
「?わかりません」
「いいんだよ。
そのうちわかるさ」
「?はい?」

言われている事はさっぱりわからないが、元気そうで安心した。

「それで、ご用とは何でしょう」
「ん〜まぁ、老い先も短そうだしな〜そろそろ話しておくべきだと思ってな」

そう言って手にしていた古い本を差し出された。
受け取れば、思ったよりもずっと重い。
黒ずんだ羊皮紙の表紙。
かなりの時を経てきた本だとわかる。
だがそんな事よりも、おかしな感覚が沸き起こっていた。
本に手を触れた瞬間に妙な既視感が頭の中を駆け抜けたのだ。

「まだ開かんでくれ。
それは代々この家に受け継がれてきたもので、初代の遺言書みたいなものだ。
まぁ、ただの日記らしいがな」
「らしいとは?」
「渡すべき者にしか読めんのだ。
文字が異国の言葉なんだよ。
それも、この地球上に存在しない言葉でね。
だが、この家に必ず読める者があらわれると言われてきた」
「では、お預かりすれば良いのですね。
次代へと受け継がれるように」
「いや。
これは勘だか、多分蒼葉、お前がそうだと思うんだよ。
読む事のできる者だとな…」