蒼の王国〜金の姫の腕輪〜

‡〜俺が捨てたモノ〜‡

等の昔に捨てたこの地に帰ろうと思ったのは、本当に気紛れだった。

クライネル王国

それがつい二十年前までこの土地にあった国の名前。
俺が生まれ、俺が捨てた国の名前だった。

そして、もう一つ。

”ラダクス・ルゼ・クライネル”

クライネル国、第七代国王であった俺自身を捨てた場所でもある。


俺が生まれてすぐに死んだ父親が、エルフだったのだと知ったのは俺が十になった時だ。
なぜ死んだのかは聞かなかった。
顔も知らないやつの事を覚えていてやる気がなかったのだ。
母親はこの国の歴史上、二人目の女王だった。
ガキの俺が言うのもなんだが、メチャメチャ綺麗な人だった。
身の内に強さと優しさを持ち、どの国の王からも”賢王”と称賛されるような王だった。
唯一の欠点は病弱だった事。
俺が十三になる頃、弟が産まれた。
だが、いよいよ母は部屋から出られなくなり、王位を一時義理の父が継いだ。
だが、これが曲者だった。
先代である祖父の実の兄の息子。
バカで、そのくせ理想主義。
バカだから腹黒い貴族達にあっさり丸め込まれるし、できもしない理想を押しつけて癇癪を起こす。
結果、見事にものの一年で国が荒れ傾いた。
そこで白羽の矢が立ったのが俺だった。
別に良い王になろうと思ったつもりはない。
ただ、母が生きているうちに、母が愛し育てた国を元の姿に戻してやりたかった。
努力の嫌いな俺が、初めて必死で手を尽くした。

ようやく落ち着いたのは母が亡くなる半年前だった。

四十になる頃、弟に王位を空け渡し、俺は旅に出た。
帰る気はなかった。
頭の出来が良い弟なら、問題はなかったし、それ以降は、はっきり言ってどうなろうが興味がなかった。

何百年か経ち、俺の事を知る者もすっかり居なくなった頃、久し振りに足が向いた。
そうして見たのは、新たな名前の国。

”旧クライネル国”

と言われるようになった土地で、突然腰を落ち着けてみたのは、自分でもよくわからん何かもやもやとしたものが働いた結果だと思っている。
そしてわかったのは、俺を知っているものはいないと言う事と、俺の知っているものはないと言う事だ。
何一つ残っていないのだと理解した時、初めて寂しいと思った。
その寂しさをまぎらわす為に始めたのが”闘舞”だった。
母が得意としたもの。
唯一、母が俺に遺してくれたものだった。

そしてそれが出逢いのきっかけとなった。