‡〜目覚めて〜‡

目を覚ましたのは、祖父の誕生日から五日が経った昼だった。
こんなにも深く深く眠ったのは、いったいいつぶりだったのだろう。
メイドや使用人達には心配させたかもしれない。
父と祖父、春臣は私とは逆にほとんど眠れなかったと後で聞いた。

目を覚ました時、一番初めに目に入ってきたのは、ほっとした顔の春臣だった。
一拍後、その顔を引き締め、『おはようございます』と言って部屋を出ていった。
子どもの様に一緒に寝てもらうなど、呆れられてしまったかもしれない。
静かに反省し、ベッドを出た。

着替えて部屋を出れば、メイド達が軽い食事を用意してくれた。
食べ終わる頃、父が屋敷に飛び込んで来た。
ちゃんと会うのは、半月ぶりだろう。

「蒼葉っ…よかった〜。
三日たっても目を覚まさないなんて事一年ぶりで…今日で五日…どうしようかと…」
「ごめんなさい。
無理をしていたのはわかっていたんだけど、そんなに眠るとは…」
「いやっいいんだよ。
君が元気になったんなら…」
「ええ。
久しぶりにとても気分が良い」
「そうか…」

本当に心から安堵する父の様子に、ほんのり心が温かくなった。

「お義父さんも心配していたから、後で電話してくると思うよ」
「うん…そんな気がする…?」
「…ふふ。
柚月くんなら、僕に君が起きた事を伝えて、今頃僕と入れ違いに猛スピードで仕事してると思うよ」
「…?…なぜ…」
「わからないかい?
君が目を覚まさないから、心配で仕事に集中できなかったらしくてね。
三日前からちょこちょこ仕事をここに持ち込んで、会社を休んでたんだよ」
「仕事を…」
「あっ休んで良いって言ったのは勿論僕だよ。
君の様子を教えてくれる人がいた方が安心だからね」
「ごめんなさい…本当にそんなに心配を掛けていたなんて…」
「心配したよ。
当然だろ?」
「…ごめんなさい…」
「うん?
違うよ。
こういう時は”ありがとう”だよ」
「はい…ありがとうございます」