ー…

「父上はあのとき死んだ…なんで私が記憶を無くしたことを知っていたの?」
「それは…」
唯が父上の容態を心配して部屋に戻ったところ、玲奈と雅仁は死んでいたと言う。
光典だけは虫の息だったものの、生きていて、唯に遺言を残したそうだ。

”亜子に何かあったら…何も言うな。黙っててやれ”
そういって光典は指輪を差し出した。
”お前が持っててくれ…”
唯はその言葉の意味が分からず、そのまま恐怖に蝕まれ部屋を出てしまった。
そのあとしばらくして亜子たちが部屋に来たのだ。

…父上は分かっていたのか…。
この結果になること…
「私は今まで、木陰にいたんだね」
亜子は剣を手でなぞり、血をふき取る。
唯は誰の血なのか言われなくても分かっていた。

「…ごめんなさい…」
「…いいよ。大きくなったね、唯」
亜子は唯の頭を優しく叩いた。
まるで光典がしてくれたように…-。


唯は光典が生きていた時を思い出した。
誰にでも優しくて、戦争を望まない優しい父親…
玲奈と一緒に笑ってこっちを見ている。

唯の頬を涙が伝う。

「ずっと…会いたかったです…姉上…」
亜子は悲しく微笑んだ。





ー木陰の屋敷。
気持ち悪いくらい静かで、人は見当たらない。
ほとんどの人が、怪我の治療と雑用にまわっていた。
龍の部屋にいるのは、美加と悠、そして楓。

「…目を覚まさない…」
美加が疲れきった顔で言う。
龍はあのあと気を失い、まだ目覚めていなかった。
傷は治療したものの、精神的苦痛が残っているらしい。
3人はずっと龍を見守っていた。


「傷…まだ完治してないだろ?休んだらどうだ」
楓が美加に言うと、彼女は包帯を触りながら言った。
「あたしの傷なんて…。龍の方が、辛いに決まってる…」
泣きそうな瞳で龍を見つめる。
当然だが彼は返事をしなかった。