気が付くと、亜子は外にいた。
誰かに抱きしめられ、目の前には炎が広がっていた。
その”誰か”は、亜子が離れないようにしっかりと抱きしめていた。
静かで悲しい涙を流している男の子だった。


「…死ぬなんていうな…」
その男の子は、泣き声で言った。
かすかに震えた体は、亜子の体温で温かくなっていく。
亜子は男の子の顔を見て、問う。

「あなたは誰?私の、仲間なの?何で燃えているの?」
亜子は記憶を無くしていた…。
あまりのショックと激痛から、脳が記憶を捨てたのだ。
何も覚えていない亜子は、龍を見て疑問を浮かべるだけだった。

ー桜も木陰も関係ない。
俺のような犠牲者を出したくない…。

龍はそんな思いで、自分と同じ位置に立っていた亜子を助けた。
しかし結果的に彼女は記憶を失い、生きている…。


あのまま死なせた方が楽だったのだろうか…

ー違う。
龍は亜子の目を見て言った。

「君は、俺の仲間だ」
「仲間?何をしていたの?」
「…」
龍は声を詰まらせてから言った。

「桜の一族の、撲殺だ…」