気が付くと、唯の屋敷にいた。
ーここは、大丈夫。私の味方だ…。
中から出てきた唯が亜子を見て驚いた。

「何があった!!?」
亜子についた返り血はまだクッキリと跡を残していた。
消えないタトゥーのように、殺気を放っている…。

「何で黙ってたの?」
亜子の頬をタオルで拭く唯に、容赦なくささった一言。
唯は全てを承知しているような顔で、亜子を中に案内した。
ー亜子の目からは、生気が感じられなかった。

「唯の姉様は…死んでなかったんだね」
唯の部屋で、嫌味っぽく亜子が言う。
「…申し訳ないことを、しました」
敬語で話す唯に亜子は疑問を感じない。
それもその筈だろう…。
唯の亡くなった姉は、死んでいなかった。
現にここにいるのだから…。


「姉様が心配で心配で…でも、黙っていました…。姉様が記憶を取り戻すまで、絶対に言わないと約束したのです」
「父上に?」
唯に同情する気も無く、亜子は冷たく言う。
少し悲しい顔をしながら、唯は曖昧に答えていく。
「…はい」酷く落ち込んでいる。

「…」
亜子は黙りだした。
ー古い記憶が、頭の中を巡っている。