屋敷の中に入り階段をのぼると、美加がニヤニヤした顔つきで亜子を捕らえていた。

「な、何?」
「その指輪、いいね~。あたしも欲しかったな」
亜子が身に付けている指輪は、龍から貰ったもの。
といっても深い事情までは美加に説明していないので、彼女は龍が亜子を好きだと誤解しているようだ。

「だから、これは龍様が私を好きだからくれた訳じゃなくてー」
「言い訳はしなくて宜しい!!さ、洗濯しよっ♪」

彼女の強引な態度にため息をつきながら手を動かす。
氷が入っているからか、水が冷たい。

「…明日、また行くんだね…」
暗い表情で亜子が話を切り出す。
美加も動揺したように悲しい顔をすると、首を縦に振った。
奇襲を仕掛けるため、明日には本部を出て行くのだ。
こんなものは頻繁で、一週間帰らない日もあった。

雑用係の亜子たちは長期のときしか行かないが、家族のような存在である龍達が危険にさらされるのが凄く嫌だった。
「いつ帰ってくるかな…」
「2日くらいじゃないかな。今回は自信があるって、龍様、言ってたじゃん?」
ーその間、私達には何もすることがない。
その空白の時間が、亜子は何より嫌いだった。


外は暗くなっている。
亜子と美加は顔を合わせると、地下におりていった。

「ん?おまんら、今日は早めじゃな」
最初に視界に入ったのは悠。
黒髪の長髪で、髪の毛を後ろに束ねている美男子。
一本だけ上に立っているアホ毛が特徴。
チャラチャラしていて女好きだが、これでも大将の一人。

「明日のために、精をつけなきゃと思って」
美加がニッコリと笑って言った。
悠はケッケと笑って、手元にあった酒を飲む。
亜子と美加は厨房に行き、他の雑用係と共に料理を作りはじめる。
だんだんと皆が集まって来て、つまみ食いをする為に何回か悠が来た。