「沙織さん、どうしたんですか?」
少し下がったのか眼鏡を人差し指で上げながら私を見下ろす彼方に、手に持っていたビニール袋を少し上げて見せてみる。
「夕飯一緒にどうかと思って」
彼方の視線は優しいけれど、彼方の後ろからニヤニヤとこちらを見る視線がうるさくて仕方ない。
多分会社内じゃ彼方が私に付きまとってる感があるから、私がこうやって彼方に差し入れというか夕飯の誘いをしているのが珍しいのかもしれないけれど、でもそんなあからさまに見ないで少しくらい遠慮をしてほしい。
……こうやって残業しているところに邪魔しているのは私だから、文句は言えないんだけど。
「わざわざ来てくれたんですか? 合コンだったのに?」
にこにこしていたからてっきり上機嫌だと思っていたのに、最後の一言でそれは思い違いだったんだと思い知らされた。
確かに合コンだったことは事実だし、否定はしないけれど行きたくて行った訳でもないし、楽しくなんてなかったし、なによりああいう場にいたからこそ余計に彼方に会いたくなってお弁当まで買ってここまで来た私の気持ちも分かっているんだろうか。
「……お弁当、食べないなら明日のお弁当にするから構わないわ。 帰る」
微笑みを崩さないまま彼方は静かな怒りを携えているから、ここは一度帰って彼方の仕事終わりにもう一度話し合いをすればいいと思って踵を返そうとする。


