軽快な音を立てて目的の階で扉が開く。
定時も過ぎていることもあって照明の落とされた廊下は薄暗い。
でも少し先の彼方がいるはずの部署からは光がうっすら漏れている。
その途中にある休憩室でコーヒーを買ってお弁当の袋の中に入れながら足を進める。
話し声は聞こえない。
カチカチとキーボードを打つ音、それしか聞こえないせいか変な緊張感に襲われる。
それを振り切って扉をノックすると、ピタリとキーボードの音が止んで中から「どうぞ」と彼方のじゃない声がした。
「お仕事中、失礼します」
少しドキドキしながら中に入ると、何度かみかけたことのある顔が2つと、その奥に彼方。
3人で残業をしていたらしい。
その中に女がいなかったことに内心ほっとしつつも、三人の視線が自分に向いてなんだか恥ずかしくなる。
明らかに彼方以外の視線に、からかいのものが混じっているからなんだけど、彼方はそんなことは気にしないとばかりに席を立ってすぐさま私の目の前まで来てくれた。


