男の24なんてまだまだ発展途上で、これからもっともっと広い世界を知ることになるんだ。
「お客さん、着きましたよ」
運転手さんの声でつらつらとネガティブになっていた考えが強制的に終わらされて、メーターに表示されている金額を支払って久しぶりの玄関を開ける。
てっきりお父さんが玄関で待ち構えているのかと思っていたのに、玄関には誰もいない。
「ただいまー」
一応玄関からそう言ってみたけれど、だれも出迎えに来てくれるつもりはないらしい。
あれだけ騒いでおきながらこの待遇はなんなんだ、と憮然としながらも靴を脱いでお父さんがいるであろうリビングの扉を開けた。
「おかえり、沙織」
にっこり笑顔でいつもと変わらない調子で迎え入れてくれたお母さんは、キッチンでなにやら作業をしている。
それに「ただいま」と返して、テレビの前にあるソファにこちらに背を向ける形で座っているお父さんに「お父さんただいま」と声をかけるけれど、うんともすんとも言わないし微動だにしない。
お父さんの座るソファの前のローテーブルにはお父さんの携帯が置いてある。
きっとここに座りながら私と電話をしていたんだろうけど、お父さんなんでテレビの方見て座ってるんだろう。 テレビついてないのに。
「お父さん、さっきの電話だけど何? どこからそんな突飛な話が出てきたの?」
背中に向かって問いかけてみたけれど、やっぱりピクリとも動かない。


