「……切ったのか?」

「はい」

「話も聞かずに?」

「えぇ、会社の電話ですし緊急だったらもう一度携帯の方にかけてくると思いますから」


それがなにか?と首を傾げると、部長ははっとしたようで「いや、いい」と歯切れ悪く言った。

それが仕事に戻っていいという合図だと分かっていたから素直に目的のコピー機のところへ向かった、……んだけど。


チラリと横目で伺うと、さっきはあり得ないくらいにやけ顔だった部長がなぜか打ちひしがれたような表情をしている。
電話を繋いでくれた子も、にやけていなくて呆れたようなでもどこか面白がっているような表情を浮かべながらパソコンに向き合っている。



……今日は普通の一日だと思ったけれど、どうやらそうじゃないらしい。



普通のようで、どこかしらおかしい。
私以外が。


規則的に、でもとてつもない速さで吐き出される私が仕上げた書類が印刷されて出てくるのをぼんやり眺めながら、グルグル考えてみるけれど分かるわけない。

ニヤニヤ部長の理由も、面白がる社員も、何があったんだかわからないけれど会社に電話してきたお父さんに何がったのかも、分かるわけない。



……から早々に考えることを放棄して、仕事へと頭の中をシフトチェンジする。

余計なことを考える前に、目の前の仕事を片付ける方が先決だ。