電話の向こうで何があったのかわからないけれど、とにかく付き合っている場合じゃない。


「あのね、私今仕事中なの。 お父さんにどんなビックリ事件が起きたのかは分からないけど相手してる余裕はないのよ、分かる?」

『だから俺はっ、』


まだまだ続きそうな訳の分からないお父さんの言葉を聞かずに、「ってことだからじゃあね」と一方的に受話器を置いた。



どうしたというんだろう。

定年退職したとはいえ、仕事をしていた人間なんだから私用で会社に電話をかけてくることがどれだけ常識はずれか分かっているはずなのに。

しかもあんなわけのわからない状態でかけてきたなんて、緊急性の欠片も感じなかったから切ってしまったけれど、いったい何があったんだろう。


首を傾げながらも、まとまった書類をパソコンからプリントアウトするためにマウスを操作してからコピー機のあるところへと歩いていく。


その途中にある部長の席の前を通ると、さっきニヤニヤしていた部長は一転して呆けたような顔で固まって私を見つめていた。


「……私の顔に何かついてますか?」


何か言いたいことでもあるのかと、そう切り出したのに部長から返ってきた返事は意味の分からないもので、


「……電話、切っちゃったのか?」

「はい、父からの私用の電話だったんですが、緊急性がなさそうなので話を聞かずに早々に切りました」


素直にそうさっきの電話の内容を話して、「私用で電話を使ってしまって申し訳ありませんでした」と一言謝罪を入れたのに、部長の顔は固まったまま。