「お前、コイツの男か?」



そんな彼方の怒りに気付かない鈍感なのか、敢えてそれをスルーしているチャレンジャーなのかは分からないけど、自称内科医は会社から出ていくこともしないでむしろ腕を組んで胸を反らし、彼方の後ろにいる私に見下すような視線を投げながら彼方に問いかける。


彼方は、ただ一言「そうですが何か?」と冷静に返事をしているけれど、正直私はこの男にこれ以上構わずに広げたお弁当を片づけて、私のアパートで彼方と早く仲直りをしたかった。

だって絶対この男……、



「お前この女やめといたほうがいいぜ? 綺麗な見た目に騙されて、実は注射なんて打ってるヤバげな女……」



蔑むような笑いまじりのそのセリフは、最後まで紡がれることなく彼方の拳によって強制的に終わらされた。


っていうか、彼方が言葉でなく実力行使に出たことに、私は唖然とした。


私の中の彼方は、変なところで大人っぽいところがあったり、手慣れたこと頃があったりしていても、基本的には草食系な男だと思っていたら。


こうやって誰かを殴ったりすることはめったにないと思っていたのに、目の前で彼方が見事に殴り飛ばした。