糖度∞%の愛【編集前】


今の私の気分とは正反対の軽快な音とともに扉が開いて狭い空間から外に出る。

そのまま帰ろうかとも思ったけれど、彼方の気配のする自分の家で一人でお弁当を食べるのもむなしいなと思って、一階のロビーの隅にあるついたてに囲まれたスペースに座ってお弁当を広げた。


誰もいないし、ついたての影だから見えることもないから堂々と血糖測定をして数値を確認。


79。

少し低いけれど許容範囲だ。

ご飯の量と生姜焼きの量を思い浮かべながら大体の単位分ダイヤルを回して、準備した注射を太ももに打って片づけを手早く済ませていざ食べようと箸をお弁当に伸ばした時、


「なにしてんの?」


この場に一人しかいないと思っていたのに、聞いたことのない声が私に問いかけた。


聞いたことない、というのは語弊がある。

声の方向に顔を向ければさっき見たばかりの自称内科医。
聞いたことはあった、ただ記憶に残ってなかっただけで。

睨むようにしてその男に視線を向けたまま黙っている私に、再び同じ問いがかけられる。